先天色覚異常に関する遺伝の6類型

大手ポータルサイトが運営するQ&Aサイトに、先天色覚異常の遺伝に関する誤った受け答えがたくさん掲載されていました。 というよりも、自然科学に即して正しく解説された(一般向けの)記述がネット上に見当たらなかったため、ここに書いておくことにしました。 以下に簡単な解説と図を載せておきます。

 

下図は、先天色覚異常の形質および因子の有無に関する、遺伝の類型を示したものです。 子を男女それぞれ2名ずつ記載したのは、形質および因子が遺伝する確率を表現するためです。 たとえば、親の形質および因子の構成が (2) や (4) だった場合、男児が先天色覚異常でない可能性は 50% 、先天色覚異常となる可能性も 50% となります。 (1) や (3) の場合は男児が先天色覚異常でない可能性が 100% となり、(5) や (6) の場合は男児が先天色覚異常となる可能性が 100% となります。

補足です。 遺伝を何世代繰り返しても、先天色覚異常の型と程度は変化しません。 たとえば、ある男性A氏が2型2色覚だったとしますと、A氏の後続の代 (たとえば孫)に先天色覚異常が発現する場合、同じ2型2色覚となります。 もし仮に、A氏の親族にA氏以外の先天色覚異常者がいないのにも拘らず後続の代に2型3色覚者が発現したなら、それは(A氏の因子に由来するものではなく)2型3色覚の因子をもった遺伝的保因者が存在するということを意味します。

以上、先天色覚異常に関する遺伝の法則を説明しましたが、これは当事者が自然科学と正面から向き合うときに必要な、非常に重要な知識となります。 その一方で、社会規範のあり方や、個人的な情緒・情動などと向き合うときに「役に立つ」知識ではありません。 ここが難しいところです。 いまはごく簡単にのみ述べます。 遺伝法則に関する知識はもちろん必要です。 けれども、だからといって「犯人探し」をするのはお勧めできません。 ある形質なり因子なりが 「親」から遺伝し、「子」へ遺伝するというのは事実です。 しかし、自然科学的な因果関係は、社会的な意味での価値(たとえば「身体」というものを個人所有される「資産」と考えるような場面での価値)を決定する因果とは異質なものです。 要するに、何か不都合なものが遺伝されたからといって「親」をはじめとする先代の人々を責めてはならない、ということです(逆に言えば、恵まれた素養を遺伝的に引き継いだからといって、特別に親に感謝する必要もないということになります)。

 

このことが理解できない人に、遺伝を語る資格はない、と私は考えています。 自然科学的知識を、価値判断なく振り回す者は、非常に愚かです。